クローバーナイト
「育児」がテーマの辻村さん作品。
私自身が独身のため、子どもを持つ親の目線で書かれたお話はとても興味深かったです。
今作は主人公が男性(父親)なのがまた良いです。
公認会計士として働く2児の父親・鶴峰裕(ゆう)は、いわゆるイクメン。
起業した妻・志保に比べて時間の都合がつきやすいことから、彼が2人の子どもの送り迎えをすることもしばしば。
同じ保育園のママ友たちと交流する中で、裕は保活やお受験などの驚くべき現状を知ることになります。
最後まで読んで、「裕みたいな旦那が欲しい!」と思った私・・・笑
育児に協力的だし、とにかく家族思いで素敵だなあと思いました。
特に最後の章、下の子どもの言葉が遅いことで、実母に追い詰められた妻を守る裕の姿がとても頼もしいです。
自分や身近に小さい子どもを持つ人がいないので、都内で保育園に入ることの大変さや、お受験事情はこの作品で初めて知りました。
かなり極端な手段だけど、保育園に入りやすくするために離婚する、という話は主人公の裕同様に私も本当にびっくりしました。
辻村さんの作品は今まで「かがみの孤城」と「東京會舘と私」を読みましたが、話のジャンルが違っても、どれも丁寧に描かれているなあという印象です。
作品に安定感があって、人気作家と言われているのも納得です。
他の作品も合間合間に読んでいきたいです。
翻訳ガール
お仕事小説は久しぶりです。
今までいろんな「〇〇ガール」を読んできましたが、今回は翻訳のお仕事をする女性のお話です。
小学生時代にマイケル・ジャクソンの曲に出会ったことがきっかけで、英語に興味を持った、目白泉子(いずみこ)。
通訳者を目指していましたが、コミュニケーション能力が乏しい泉子は通訳者を断念することになります。
彼女が次に選んだのは翻訳の仕事。
実用翻訳の会社「タナカ家」で働く傍ら、個人で海外小説の翻訳を手掛けています。
今回依頼された海外小説の翻訳に力が入る泉子ですが、会社勤めの身であることや、納期がタイト、いやがらせ等々、様々なハプニングに見舞われることに・・・。
この作品で初めて知ったのが、「実用翻訳の会社」という存在。
契約書やマニュアルといった、ビジネスの場で発生する文章の翻訳業務を請け負うそうです。
泉子はタナカ家で「チェッカー」という、校正者の役割を担っています。
海外小説の翻訳は、異言語で綴られた作品を、いかに日本語で表現するかが、翻訳者の腕の見せどころです。
日本語には本当にたくさんの言い回しがあるので、英単語ひとつ取っても、文脈に沿った適切な言葉を選ぶことが必要になります。
たくさんの文章に触れて、言葉や表現の引き出しを作ること、そしてそれを引き出すセンスが必要なんだなと思いました。
「翻訳ガール」とあるものの、上記のような、「翻訳者の仕事ならでは」というシーンが少なかったのが残念でした。
翻訳者らしい、読者をうならせるような、英語→日本語の翻訳をもっと見たかったです。
また、作中で発生する数々のハプニングも、それを起こした人物に全く共感できませんでした・・・。
この作品の前に出版された本も借りているので、あとで読んでみます。
面白いといいな。。
生きるぼくら
一度図書館で単行本を借りて読んだのですが、とても良かったので文庫で購入して再読しました。
文庫本の表紙の絵は、作中に出てくる「ある場所」。
単行本の表紙デザインは別のものだったのですが、私は文庫のほうが好きです。
高校時代のいじめにより、引きこもりになってしまった麻生人生(じんせい)。
母との二人暮らしでしたが、24歳のある日、母が家からいなくなってしまいます。
テーブルに残されたのは、5万円と母宛に届いた年賀状の薄い束。
人生は年賀状の束の中から、小学生の頃に離婚した父親の故郷・蓼科に住むマーサばあちゃんからの年賀状を見つけ、彼女が「余命数ヶ月」ということを知ります。
ずっと疎遠だったけど、大好きだったマーサばあちゃんの近況にいてもたってもいられず(他に頼る人もいなかったため)、お金と年賀状を握りしめて、信州・蓼科へ向かうことに・・・。
この作品がすごいのは、引きこもりや認知症などの社会問題がリアルに描かれているけれど、重くなりすぎず、でもやっぱり考えさせられるな・・・というバランスが絶妙なところだと思います。
世話好きのおばちゃん・志乃さんがとてもカッコいい!
「人生」の先輩として、優しく、時には厳しく人生や”つぼみ”にアドバイスをする姿がとても頼もしいです。
作中でメインとなる「米作り」の過程も、とても丁寧に描かれています。
実際に自分が、蓼科で米作りをして、季節の移ろいを感じているかのようです。
マーサばあちゃんの「自然の田んぼ」でとれたお米のおにぎりを食べてみたい・・・。
蓼科でマーサばあちゃんと暮らす中で、長年引きこもりだった人生が成長していく姿に、自分ももっと成長できる!と勇気をもらえます。
読みやすく、ストーリーも素敵なので、おすすめしたい一冊です。
そして、バトンは渡された
2019年本屋大賞受賞作。
本屋さんに単行本がたくさん並べられていて、前から気になっていた作品です。
最近ふらりと寄った本屋さんで文庫本になっているのを見つけて、即購入。
瀬尾さんの作品は、「強運の持ち主」を読んで以来です。
他の作品は読んだことがないのですが、ほのぼのと、心にじんわりくるような作品を書かれる方という印象です。
高校生になるまでに何度も家庭環境が変わった森宮優子、17歳。
母親は2人、父親は3人。苗字は森宮になる前に3回変わっています。
さぞ辛いことや苦しいことが沢山あったのだろうと、周囲は想像してしまいますが、優子自身は「不幸なことは何も無い」と心から思っているようです。
というのも、出会ってきたどの親も、本当に優子のことを大切に思っていたから。
大人の都合で本人にその気がなくとも、"バトン"となり、血の繋がらない親の間を行き渡ってきた優子の次の行く先は・・・。
作中で、優子の担任の先生が「あなたのように、たくさんの親に愛されている人はなかなかいない」と優子に伝えていましたが、私もそう思います。
実際の連れ子って、ニュースでもよくあるけれど、不遇な立場になることが多いんじゃないかな。
個人的に驚いたのが、中学からピアノを始めた優子が、習い始めて半年で中学の合奏用伴奏くらいはなんなく弾けるようになっていた、ということ。
そしてその後、高校の合唱コンクールでも自然と伴奏者に任命されるほどの実力があるということ。
作中で、驚きを伴って「うそでしょう。」という発言が多く出てくるんですけど、まさに「うそでしょう。」とこの件で思いました。
私、小1から中1までピアノ習ってて中学の合唱伴奏はやったけど、高校のは難しくて無理だった・・・。他に上手い子いたし。
普段、高校生が主人公の作品をあまり読まないので、新鮮に感じると同時に、自分の高校時代のことが思い出されて少し懐かしく感じました。
30年生きてきた中で、高校時代が一番充実してたなぁ・・・。
暑い夏が終わって、最近はだいぶ涼しくなってきました。
年中読書はしているけど、「読書の秋」って響きがとても好きです。
秋もたくさん本読むぞー!
鴨川食堂 はんなり
鴨川食堂シリーズ第5弾。
投稿はしてませんでしたが、気まぐれに追っていた作品です。
ふと、「はんなり」とは・・・?と気になったので調べてみたら、
「上品で華やかなさま。ぱっと明るいさま」とありました。
なるほど~。
第1弾はこちら↓
今回の第5弾まで全部読んできましたが、個人的にこれまでのシリーズで一番、依頼人のキャラが立っていたように感じました。
インスタ映えを気にして、とにかく食べ物の写真を撮る女性。
両親にも妻子にも先立たれた孤独な男性。
69歳で新たな恋に目覚めた女性。
今回で一番好きな話は「親子丼」ですね。
京都旅行中、彼氏に連れられ、いわゆる「名店」と呼ばれるような店ではなく、通りすがりの普通の食堂で親子丼を食べたこの女性。
でも、名店にこだわる彼女は、この食堂や親子丼に関心を示さず、後に彼氏とも別れることに。
後になって、彼女は元彼がなぜあの店に自分を連れて行ったのか疑問に思い、鴨川食堂に足を運ぶことになります。
この話で印象的だったのが、店主・流の
「特別な店と違うてふつうの店で食べて美味しいのが、京都という街です」
という言葉。
私もそうですが、旅行の計画を立てるときはネットでお店の評判を見て、行くところを決めがちです。
流はそういうのは信じず、直感で入るお店を選ぶそう。
「ありきたりなお店だけど、美味しいものが出てきそうな気がする」
こういう自分の直感を信じていると、依頼人の女性に話していました。
情報があふれている現代、意識せずともそれに頼りがちになってしまいます。
周囲の評価を気にするのではなく、自分の感覚を信じられる人になりたいと思いました。
余談ですが、先週私も京都に行ってきました。
帰ってきた後にこの本を読んで、第1話の季節が今とドンピシャで驚きましたね。
シルバーウィーク前、インバウンドも全然いない京都は本当に最高でした!!
わたし、定時で帰ります。HYPER
ザ・お仕事小説!
記事は書いてませんが、こちら↓の続編です。
どんな時でも定時で帰る東山結衣。
そんな彼女も入社11年目となり、とうとう管理職になります。
入社時は定時で帰る姿を周囲から白い目で見られていた結衣ですが、社長がホワイトな企業を目指しているため、管理職になっても定時で帰るよう命じられます。
しかし、超絶ブラックな取引先候補や手強い新人たちに囲まれ、定時で帰ることはおろか、全てを投げ出したい一心で海外へ逃亡することに・・・。
最初に読んだとき、取引先候補の社員の区別や内容の理解が追い付いていなかったので、読み終わってすぐにまた最初から読み直しました。
取引先候補のパワハラやセクハラの様子や、それに耐える結衣や晃太郎(結衣の上司で元婚約者)の姿、理解の無い両親など、読んでいて気が重くなる場面が多かったです。
割と最後の方まで救いが無い感じだったので、「解決するのかな?大丈夫??」とハラハラしながら読みました。
結衣を慕う入社2年目の来栖くんが可愛くて、結衣とくっつくといいな~と思ってたんですけど、そうはいかなかったですね。残念。。
晃太郎は強い。たしかに敵わないわ・・・。
企業の在り方、会社員(特に上司として)の在り方について考えさせられる、とても良い内容でした。
また続編が出るといいな!
ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ~扉子と空白の時~
とても久しぶりのブログ・・・。
コロナ自粛、長い梅雨、記録的な猛暑を経て、あっという間に9月です。
前回の投稿で「早く図書館が開いてほしい」と書きましたが、5月中旬くらいに開館しました。
金銭的にあまりたくさん本を買えないので、図書館があることの有難さを今回改めて感じました・・・。
ブログは書いてませんでしたが、4月~8月の間で60冊くらい読みました(手持ちノートに読んだ作品は記録している)。
ブログ再開一発目は、ビブリアシリーズの新刊です。
前作はこちら↓
前作では栞子さんの娘・扉子はまだ幼かったですが、今作では高校生になっています。
といっても、高校生の扉子が出てくる場面は最初と最後のみですが。
母ゆずりの本好きは健在で、今作では扉子自身も古書にまつわる謎を解くという、新たな「扉」を開けるきっかけとなりそうなエピソードが収録されています。
私は推理小説はほとんど読んでこなかったので、横溝正史とは・・・?という感じだったのですが、探偵「金田一耕助」の生みの親なんですね。
栞子さんの夫・大輔くんが書く「ビブリア古書堂の事件手帖」の記録によれば、「雪割草」にまつわる事件は、『あの栞子さんが完全には解決することができなかった事件』とあります。
第一話の「雪割草Ⅰ」は、上記のとおり、栞子さんや大輔くんにとって不完全燃焼といった形で終わってしまったエピソード。
そして第三話「雪割草Ⅱ」では、9年の時を経て、この不完全に終わってしまっていた事件と改めて向かい合うことになります。
「雪割草」は、本格推理小説で有名な横溝正史が自身や家族の生活のために書いた「家族小説」なんだそうです。
今回のビブリア作品を読んで、「雪割草」を読んでみたくなったので、今度探してこようと思います。
栞子さんと大輔くんは、相変わらずラブラブですね!笑
個人的には栞子さんの妹・文香がどんな大人になったのかが気になります。
扉子シリーズの中で出てきてくれないかな~。